
生徒を守ろうとしたはずが、気がつけば教頭にセクハラされて辞職に追い込まれ家出。文学青年崩れの男に暴力を振るわれてソープ嬢になり、ヒモを殺して刑務所へ……。『嫌われ松子の一生』のヒロインは、『週刊新潮』の『黒い報告書』に出てくる女の人生をひとりで背負っている。というか、すべての悲劇があまりにも図式通りすぎて、『黒い報告書』にすらそっぽを向かれそうな勢いだ。そんな絵に描いたような昭和の香り漂う「メモリーズ・オブ・マツコ」の監督はなんと、乙女の心に響くロマンチックでハイパーで笑えて泣ける映画として完成させてしまった。この恐るべき離れ業を成し遂げるために監督は、松子という不器用にもほどがある女にとびきり愛情あふれるまなざしを注ぎながら、全編にCGを盛り込み、ミュージック・クリップの手法やアニメを採用している。
『アメリ』みたいなはちみつ色の映像、ディズニー映画のようにさえずる小鳥たち、極彩色の花々や衣裳に美術。すべてが渾然一体となって、はたから見れば不幸な松子が見つめていたこの上なく幸せな世界が、私たちの目の前に広がっていく。父親に愛されなかった娘の心には、やっかいな宿題が残る。けれどもだからこそ、どんなときも一途に男たちを愛し、愛されたいと願った松子。現代を生きる甥っこが彼女の記憶を発見したように、彼女の人生のかけらたちをスクリーンで見つけてほしい。