
周防正行といえば、学生相撲の世界を描いた出世作『シコふんじゃった。』や、社交ダンスブームを巻き起こし、ハリウッド・リメイクもされた大ヒット作『Shall we ダンス?』など、ウェルメイドなコメディを生み出してきた監督だ。
ユニークな題材を料理してきた周防監督が11年ぶりに発表した最新作『それでもボクはやってない』のモチーフは、ズバリ“日本の裁判”。痴漢冤罪に関する新聞記事を読み、「疑わしきは罰せよ」の現状に疑問を抱いた日から約3年。徹底的なリサーチを重ねて“裁判オタク”と化した周防監督がその知識のすべてを注ぎ込み、まったく新しい法廷エンタテインメントを生み出した。
通勤電車で痴漢に間違えられた青年を演じるのは、あくまで“普通”なたたずまいと生っぽい表情が、問題をより身近に感じさせる加瀬亮。観る者が裁判に関するあらゆるトリビアを他人事やお勉強モードではなく、リアルな問題として追体験するために彼が果たした役割は大きい。
ハリウッドの法廷もののようにドラマチックな演出にたやすく逃げる事無く、裁判の入口から出口までを誠実に描写することで2時間23分を一気呵成に見せ切る斬新な社会派映画を完成させた周防監督。だからこそこの作品は、観客ひとりひとりが、“日本の裁判”を“自分の裁判”として受けとめ、考えるための最良のテキストになるはずだ。