
見上げれば吉原の大門にはひらひらと金魚が泳ぎ、鮮やかな緑色の畳に真っ赤な壁、床の間には洋花。ゼブラ柄の帯をだらりと締めた花魁たちが、しゃぼん玉の舞う江戸の街をゆっくりと歩いていく。思わず息を飲んでしまうようなこんなアバンギャルドな遊郭を、はじめて見た。
監督はすでにフォトグラファーとして自らの世界観を確立し、女の子を中心に絶大な支持を得ている蜷川実花。彼女は長編初監督作『さくらん』において、一度観たら決して忘れることの出来ない中毒性のある“蜷川ワールド”のビジュアルの魅力を、そのままスクリーンに移植することに成功しているのだ。
しかも蜷川実花は、これまで映画のなかで女たちががんじがらめになる場所であった遊郭を、ヒロインがもがきながらも自分の足ですっくと立って生きようとする場所として描いた。惚れるも地獄、惚れられるも地獄、ここには本気の恋があり、覚悟があり、痛みがある。
『さくらん』にあふれているのは、蜷川実花だけが生み出すことのできる甘い毒を含んだヴィヴィッドな色彩感覚と、土屋アンナをはじめとする女たちの剥き出しのエモーションを一瞬たりとも見逃すまいとする、まっすぐなまなざしだ。にぎやかなおしゃべりから浮かび上がってくる、ずるさと純情、図々しさと健気さ。そのすべてが、今を生きる女の子たちと同じ体温をもって迫ってくる。