
現在ブーム真っ只中の落語。その面白さ、痛快さは、たとえば宮藤官九郎脚本、長瀬智也&岡田准一主演による連続ドラマ『タイガー&ドラゴン』にも大変良く表れていました。けれども、映画『しゃべれども しゃべれども』はひとりの落語家を主人公にしながらも、落語を題材にした他の作品とは一味も二味も違います。
口下手克服のために、ある青年落語家の下で落語を学び始めた3人。ひとりは“性格ブス”と勘違いされる美人、ひとりは転校先でなかなか馴染めない小学生、ひとりはさっぱり“使えない”野球評論家。持って生まれたキャラクターも、抱えるコンプレックスもそれぞれに違う彼らが、“即席落語教室”での体験を通して、ささやかだけれども大切な変化を遂げていきます。
けれどもこの映画の独創性は、生きるのが不器用な人々の成長物語にあるわけではありません。“しゃべることの先生”であるはずの青年落語家自身が克服すべき困難に立ち向かっていく姿を描いていくのです。饒舌で、弱さを見せない彼のような人間にも悩みがあることを、真摯に軽やかに見つめているからこそ、格別の余韻が生まれます。
『愛を乞うひと』『レディ・ジョーカー』など多彩な筆致で知られる平山秀幸監督ならではの、奥行きがあって、みずみずしい“新しい青春映画”の魅惑に、どうぞご期待ください。