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『自虐の詩』について語り合いました
9月21日(金)スペースFS汐留(東京・新橋)18:00開場〜
ゲスト:堤幸彦監督
Evolution J film

 「日本一泣ける4コマ漫画」と大絶賛された、業田良家の伝説のコミックの映画化『自虐の詩』。堤幸彦監督が『ケイゾク』の中谷美紀と『トリック』の阿部寛という自らの代表作の主役を競演させ、コミックにはないエピソードを挿入させた本作は、原作そのままに笑って泣ける傑作として公開前から早くも話題に。この日のトークでは、その意外な誕生秘話を聞くことができた。

「舞台を原作の東池袋から飛田に変えれば映画にできると思った」

Q:極端なまでの貧乏と愛を描いた作品ですが、デフォルメを重ねた挙句、それがスタンダードになっているのが素晴らしいですね。
堤:実は最初、(監督の依頼を)断ろうと思ったんですよ。原作は好きで、雑誌で連載されていたときから気にしてました。でも、自分の力量では撮れないだろうというのが正直ありましたし、中谷(美紀)さんが出てくれるって話を聞いたときも、いや〜俺には『嫌われ松子の一生』は撮れないって思ったんですね。僕は“嫌われ松子”が大好きで、あれを超えるコメディは自分には撮れないし、ある種日本映画の大傑作の1本だと思っていますから。でも、中谷さんとお会いして顔を見ているうちに、ただ「すみません。できません」では情けなさ過ぎるな、と。で、原作では東池袋が舞台なんですけど、それを大阪の飛田に変えれば、それが突破口になるような気がしたんです。だから、土地の力が僕の中ではこの映画の非常に大きな要素になっています。『包帯クラブ』もそうですけど、リアルな具体的な場所で虚構を作るのが僕の最近の手法で、今回もそれに助けられましたね。
Q:中谷さんをどう動かし、どう配置すれば“嫌われ松子”とは違うものになると考えました?
堤:イメージとしては飛田に普通にいる女性。ポイントは下町の雰囲気を持っているってことだけでしたけど、それはあえて僕が説明しなくても中谷さんの方が分かってらっしゃいましたよね。僕は原作のようなツルンとした衣裳を最初はイメージしていたんですけど、中谷さんは意外と現代的なものを考えていらして、「監督、いまは平成ですよ。21世紀ですよ」って言われたんです。それで翌日、飛田に行って喫茶店や薬局、スーパーで働いている女性を見てみたら、明らかに中谷さんの言っていることの方が正しい(笑)。それでそこは現実的であるべきだと思って、いまの形になりました。だから、中谷さんが素晴らしいのは、私がそうしたからではなくて、ご本人のこの映画に懸ける意欲がすごいからです。それは『明日の記憶』の(渡辺)謙さんと一緒ですね。

10月27日(土)より、
渋谷シネクイント、シネリーブル池袋ほかにて公開
司会:相田冬二
文:イソガイマサト
PHOTO:星野洋介

冒頭からラストまで堤流の遊び感覚が画面いっぱいに出現
 漫画評論家、いしかわじゅんは著書『漫画の時間』のなかで『自虐の詩』を「卑近で、壮大で、美しい」と紹介している。4コマのギャグ漫画に似つかわしくないこのフレーズに惹かれて、原作をはじめて読んだのが10年前。それから、4コマでありながら大河級の感動と衝撃を与えてくれるとてつもないこの本を何度も手にとり、その度に幸江とイサオの人生に泣かされてきた。
 執拗に描かれるちゃぶ台ひっくり返し攻撃による健気な妻とヒモ夫の物語から一転、物語は後半からはじまる回想によって、怒涛の展開を見せる。次第に明らかにされる幸江の悲惨な過去とイサオとの純愛が、前半の物語の意味をいきなりふくらませ、豊かなものにしていくのだ。
 堤監督は映画化にあたってその稀有な構成を巧みに採用しながら、原作ファンのツボを刺激しまくる笑いもしっかり畳みかけてくる。手首のスナップも腰の入れ方も芸術的にパーフェクトなスローモーションちゃぶ台ひっくり返しを筆頭に、数々の名場面を堤流の遊び感覚が生きる映像で観られる楽しさと喜び!
 冒頭とラスト、堤監督が画面いっぱいに出現させたのは、気持ちよさそうに泳ぐクラゲ。様々な経験をくぐり抜けた幸江は「幸や不幸はもういい。人生には明らかに意味がある」とつぶやく。それは、幸福の意味なんてゆらりと飛び越えてしまう、クラゲのような境地なのかもしれない。
text:細谷美香

阿部寛、中谷美紀が繰り広げる夫婦愛
同じ不幸な境遇でも、生命力の強さにおいて『嫌われ松子の一生』とは異なるアプローチでヒロインの幸江を演じた中谷美紀。無口で乱暴者な無職夫・イサオをパンチパーマで演じた阿部寛。原作とは印象の違う美男美女のふたりが真っ向勝負の演技で予想以上のケミストリーを感じさせ、見事に“平成・夫婦善哉”の世界を体現している。

監督:堤幸彦 原作:業田良家 出演:中谷美紀/阿部寛/遠藤憲一/カルーセル麻紀/松尾スズキ
配給:松竹 上映時間:1時間55分 10月、シネクイントほかにて公開


堤幸彦監督
Profile
'55年生まれ。TVディレクターを経て、'88年『バカヤロー! 私、怒ってます』の1編でデビュー。『TRICK』シリーズなど数多くのTVドラマをヒットに導くほか、『明日の記憶』や『サイレン…』など幅広い作風を自在に操り、多くの作品を発表し続ける技巧派監督である。
Message
作り終わってこんなにも満足度が高い作品は初めてです。いつもは不安で見直すことが怖くなるのに、何度も見たくなりました。何もかもが幸せで、つい涙ぐんでしまう、そんな作品です。きっと劇場の隅で何度も観てしまうことになるでしょう。皆さんも是非劇場でご覧ください。
©「自虐の詩」フィルムパートナーズ
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