
漫画評論家、いしかわじゅんは著書『漫画の時間』のなかで『自虐の詩』を「卑近で、壮大で、美しい」と紹介している。4コマのギャグ漫画に似つかわしくないこのフレーズに惹かれて、原作をはじめて読んだのが10年前。それから、4コマでありながら大河級の感動と衝撃を与えてくれるとてつもないこの本を何度も手にとり、その度に幸江とイサオの人生に泣かされてきた。
執拗に描かれるちゃぶ台ひっくり返し攻撃による健気な妻とヒモ夫の物語から一転、物語は後半からはじまる回想によって、怒涛の展開を見せる。次第に明らかにされる幸江の悲惨な過去とイサオとの純愛が、前半の物語の意味をいきなりふくらませ、豊かなものにしていくのだ。
堤監督は映画化にあたってその稀有な構成を巧みに採用しながら、原作ファンのツボを刺激しまくる笑いもしっかり畳みかけてくる。手首のスナップも腰の入れ方も芸術的にパーフェクトなスローモーションちゃぶ台ひっくり返しを筆頭に、数々の名場面を堤流の遊び感覚が生きる映像で観られる楽しさと喜び!
冒頭とラスト、堤監督が画面いっぱいに出現させたのは、気持ちよさそうに泳ぐクラゲ。様々な経験をくぐり抜けた幸江は「幸や不幸はもういい。人生には明らかに意味がある」とつぶやく。それは、幸福の意味なんてゆらりと飛び越えてしまう、クラゲのような境地なのかもしれない。